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ヴィタール評論(6)
鉄男からずっと、フィジカルの物語を描いてきた塚本晋也。それは都市開発の暗喩だったり、マッチョで暴力的な欲望だったりしてきた。
バレットバレエで恐らく大きな転機を迎えた監督だ。若者群像らしき映画なのだけど、何か違う。妻を失った中年男と、チーマー集団の欲望と暴力の乱交。監督のトーキョーへの思いににケリをつけた作品じゃなかろうか、、、とぜんぜんヴィタールの話にならないのだが、フィジカル、マッチョ、エロス、それまで生の肉体のパワーが描いてきた塚本が、死について描いた恐らく初めての作品。それがヴィタールだ。解剖実習を通して死者と対話し、自らが再生していく物語。あらゆるところで、いのちが軽んじられる昨今、こういう映画こそ時代に必要だとおもう。
印象「泣ける」にもチェックしておいたが、誤解を招かぬように補足すると、一般的ないわゆる「涙の強盗」映画ではなく、しみじみと胸の奥でジーンとくるような映画。見終わった後も、1週間くらいその映画のことを考えてしまう。それが私にとってのベストムービー。
「ヴィタール」とは「生命に不可欠な器官」、または「核心」。事故で記憶を失った医大生が、解剖実習にのめりこむことによって、「記憶」を取り戻しつつ、次第に「現実」を見失っていく・・・。無機質な解剖実習室や主人公の荒れ果てた部屋、または昭和の佇まいを残す商店ですら、どこか硬質で近未来チックな舞台。青年の暮らす「現実」世界は青みを帯び、薄暗い。登場人物は張り付いたような無表情のまま、悲しみや絶望や怒りを表現し、さながら能面のような気迫を感じる。その生活観の無い「現実」世界とうって変わって、明るい陽光を浴びた南の島の楽園のような風景。そこは医大性の死んだ恋人が暮らす、この世とあの世の狭間・・・。そこで美しいコンテンポラリーダンスを披露するのはバレリーナの柄本奈美。彼女の演じる医大生の恋人は、死の間際、自分を献体として、愛する人に解剖されることを望む。彼女の思惑通り、男は彼女の“骨の髄まで”自分の物とし、「核心」を得てゆく。男にとってその「核心(愛)」はフェイクか、リカルか?世界のクリエーターに絶賛される塚本ワールドは、グロテスクであり崇高な愛の世界だ・・・。
事故で記憶を、なくした博(浅野忠信)はなぜか医学書に興味を示すようになり、医学部に入学。その解剖実習で割り当てられた遺体はかつての恋人だった。実習にのめり込みながら記憶をとりもどしつつある博の愛の姿を美しい映像で、描いている。浅野忠信もよかった。