mid90s ミッドナインティーズ

90年代半のスケーター達の日常。ラリー・クラークの「KIDS」や「ワサップ！」にかなり影響を受けている感じ。音楽の選曲が良い。ソウル・オブ・ミスチーフやノートリアスB.I.G、ピクシーズにバッド・ブレインズなどなどなどなど、懐かしい音楽が次から次へと。所々で鳥肌が立った。インテリアのポスターやCD、Tシャツも懐かしいものばかり。クラシックな雰囲気のスケートビデオもノスタルジック。ストリートカルチャー全盛期の青春が詰まっていた。アメリカのスケートパークに行ってその空気を味わいたくなった。いかにもA24らしい作風で良かった。

ジョナ・ヒルが作る映画ってどんなのだろう、と想像する時、これまで彼が出演してきたハイテンションのコメディばかりが頭に浮かんだ。しかし、いざ映し出されたのは、まさかのアーティスティックな青春ドラマ。それも全編16mmで撮影された映像の中、少年たちの心の機微が時に陽だまりのように優しく、時にザラつくほどリアルに伝わってくる逸品だった。こっそり忍び込んだ兄の部屋で、初めて触れる芳しい９０年代のカルチャーの数々。平等とは程遠いディールで手に入れたスケートボード。入り浸った店内で友情を育む仲間たち・・・。歳上といえば意地悪な兄しかいない少年が、やがて仲間との交流によって徐々に変貌していく姿が可愛らしかったり、心配にもなったり。ありきたりではない会話にふと各々の家庭環境、将来への不安などを忍び込ませる匙加減もさすが。85分の映像世界に、90年代と仲間と家族への思いを目一杯に詰めこんだ、愛すべき一作だ。

ネタバレ！ クリックして本文を読む
いきなり兄のイアンに壁に嫌というほど体ごとぶつけられ、しかもマウントポジションをとられてボコスコに殴られるスティーヴィー。 現在13才...
"Stay out of my fu*king room, Stevie." なんて言われても兄の少し大人の部屋を覗きたかったのか？　そうでもないのか？ ...兄の誕生日プレゼントの品定めの為って、あんなにボコスコに殴られたのに兄想いのすこぶるいい奴 、スティーヴィー ... 対照的にプレゼントをもらってもにこりともしない兄のイアン... そのイアンの態度が後々の伏線になっている。この暴力優先思考のSМチックなそんな兄を演じていたのが、最近「ハニー・ボーイ」でこれまた極端な児童虐待を思わせる父親を愛する息子や「ベン・イズ・バック」で孤独感というものを鋭く突き付けた少し暗くて少し謎めいた、にこりともしない青年役など ...今回も実は？ 人知れない隠された苦悩を決して表には出さずに、こころに秘めた "coming of age" 前の複雑な立場の青年をさりげなく演じている彼、ルーカス・ヘッジズ。

I guess sometimes. Like, say we go skating in Beverly Hills. Everybody
is already looking at us like, "Hey, you guys are vandalizing property."
Like "Get the fu*k out of here." Blah, blah, blah. But sometimes I feel
like it's a... A little bit extra heavy on me. People judging me and stuff,
but, fu*k it. Those people are ignorant.
I got another one. Can black people get sunburnt?　　--OH, MY GOD！
Are you fu*king kidding me right now?
Seriously, I genuinely want to know. Like, every time it's hot out, I'm,
like, "Does he need sunscreen? Is there, like, black suntan lotion, or..."
You're a real dump-ass. Just when I thought you had a brain, bro.
You dumb as hell.
Did you know that black people could get sunburnt?
スティーヴィはレイからこんな質問をされて...しばらくして、
What are... What are black people?
Fu*k. Sh*t. That was dope. I liked that. I liked that. Yeah, but... Y'all
trying to go to try skate? Let's go！You coming, Sunburn? Sunburn！
[ALL LAUGHING]... 仲間入り決定⁉
スケボーとファッションをミックスした姿を見ているだけでも憧れの的のカッコイイ年上の彼ら... その彼らは、ショップに来た孤独で幼さからの脱皮をしようとするスティーヴィーを何も言わないのに快く迎い入れ、いつの間にか、スティーヴィーはサンバーンと呼ばれ、彼は居場所を見つけていた。(余談：上記のセリフはレイ役のナケル・スミスの実体験より)

レイ、ファック・シット、ルーベン、フォースグレイド... 彼らは演技をしているのか？　監督のヒルは、スケートカルチャーの「本物」に対する相性を尊重するあまり、俳優の演技よりも実際のスケーターのありのままの姿を優先し選択することで、すべてのリスクをジョナ・ヒル監督は冒していると言われている。それが "負の勝利" となるとは... 付け加えるなら、モキュメンタリーを思わせる映画作りの上に スーパー16㎜フィルムを撮影に使用し、そんな16㎜フィルムも昔は、手軽で経済的でよく非劇場の映画製作で使われていたけどデジタルカメラが出てきて以来、見かけない、とんとご無沙汰というか今では、誰も使わない... でもそれが反って、ノスタルジックで自然体な撮影スタイルと相まって本物志向の映画に変えている。ただし言わせてもらいたい事がある... 映画.comの予告編は本編以外のスタッフによる演出なのか？ この映画の映像の独特さと質感を完無視した作為的表現で映画の良さを半減させている。この予告編を作成した方は、映画の "オリジナリティ" にこだわりが無いと言える。

Am I... Am I allowed to say thank you? I mean I want to, but I don't
want you to think I'm gay.
Fu*king weirdo. Saying "thank you" isn't gay. It's just common
manners.
Thank you, so much.
No problem.
スティーヴィーが、タバコだけでなくウィードをも吸ったり、年上の女子との経験や、もちろんお酒を飲んだりもしたり、またフェティシズムを連想させるシーンと同じ次元で、スティーヴィーが男らしさの何たるかもわかっていないのに、トランスジェンダーに対する偏見や忌み嫌う感情だけは芽生えているって、悲しくなるようなセリフに加え、子供たちに"Fu*k""Sh*t" という禁忌なものをコメディ映画に出演している俳優の面も持っている監督が何故セリフにインサートしたのか？　彼は、この映画が、彼自身の人生についてのバイオグラフィーではなく、それはちょうど傍観者的に10代の子供の普遍的な憧れについての映画と位置付けているためで、10代の人生の中で数ヶ月の重要な時間を追い、感情的に透明なパフォーマンスと人とのコミュニケーションという映画の大切なスピリッツを客観的に描こうとしているため... だからプロデューサーのスコット・ルディンが、この映画の中に"Fu*k""Sh*t" という敬遠される言葉を使う理由をあらかじめ観客に断るようなセリフを映画の中で彼らに言わせると映画自体が不快なものになると懸念したと聞く... ただ、クリスタル・モーゼル監督の女子力全開のモキュメンタリー風映画とは距離を置くほど恣意的な面がこの映画には残念ながら現れている。

I was surprised with certain turns it took. I don't feel like anyone
has made a skateboarding movie that made it feel like real life,
except for "Lords of Dogtown" , maybe. But that was based on a
true story. Jonah's is original, and I was like, 'Oh sh*t, this is kinda
deep.' Like, drugs, sex and all that sh*t is pretty normal, but not
necessarily what you expect in a skating film. He went in from one
of the best angles, where it was less about the physical act of
skating and more about friendship, camaraderie and sh*t like that.
上の文章は、"ジョナヒルの映画監督デビューのスケータースターに会う" の見出し記事：雑誌DAZEDに掲載されていたナケル・スミスのコメント...　　彼なりに映画「mid90s・・・」について語っていたので敢えて一部抜粋して載せてみた。(2018年12月18日：FILM & TV THE WINTER 2018 ISSUE)

サニー・スリッチ、ナケル・スミス、オーラン・プレナット... "Androgyny look" 感は半端ではなく、撮影当時13才のサニー・スリッチは分からなくもないが、ナケル・スミスは2年後の現在と比べるとその彼のスタイルは大きく変貌している。たかが2年とはいえ... 人にも"旬"というものがあるのか？

彼らは、やはり役者であった ！
「ジョナ(監督)は、私たちが実際にどのように暮らしているかをいくつか脚本に使用しました。 彼はキャラクターを一方向に書き、それから私たちが実生活でどのように相互作用するかを見た後、（映画）が変わりました」 - ナケル・スミス
「この映画が "フェイク" だとはよくわかっています。 しかし、スケートをすることで、異なる文化、音楽、および（その他の）種類のものにもっとオープンになれます。 すなわち私のスピリッツとソウルです。 それは私に良い労働倫理観を教えてくれました。また、こうも言えます。もしあなたが何かにつまずいたのなら、すぐに立ち直って、もう一度やり直してください」.. と - ナケル・スミス

あなたにとってスケートボードは何を意味しますか？... の問いに
「スケートボードはあなたが誰であるかを忘れさせます。 嫉妬も恥ずかしさもないので、誰もがあなたが本当に誰であるかをあなたに告げます」 - オーラン・プレナット

シニカルというよりはどちらかというとアイロニックさのあるニックネーム... フォースグレイド。　でも映画でずうーっとフォースグレイドが撮り溜めていた彼らの生き生きとした姿を最後の最後に披露する小憎い演出と共に映画の幕が下ります。ラスト... ファーサイド の1992年の曲♪ Passin' Me By ... さんざんヒップホップを作中、流していたのにオーソドックスな90年代のレジェンドをチョイスするなんて... 許せる裏切り行為！